フランス留学中の25歳女 その徒然なる日々

2018年夏からフランス留学中の25歳(女)です。今までは東京で働いていましたが束の間の学生への回帰。フランス社会を外国人として観察して思うことを徒然なるままに綴ります。

私立大学の女性差別は認められるか?

東京医科大が女子学生の点数を意図的に下げていた事件を受けて思うこと。
まずファーストリアクションとして、ショックと失望を感じました。男女雇用機会均等法が日本で成立したのは、1980年代です。女性が性別によって差別されることなく働けるようにすることを目指した法律で、婚姻・出産・妊娠を理由とした不利益取扱いも禁止しています。今回の事案は大学入試ではありますが、これは大学の入学試験においてむしろより前提とされてきているはずですので、それを信じて努力してきた一人のかつての女子受験生として、このような差別がいまだにまかり通っていたことはショッキングで動揺を隠せませんでした。
 
まだニュースが出た当日なのであまり情報は出ていませんが、その上で様々な記事を読み、大学側関係者が「どの医大でもやっていること。私大だからある程度の恣意的な選別はあってもいい」と話した、との記事を読みました。
そこで、今日は
「どのような学生を採用するか」は本当に大学の裁量の範囲内か?
(私立大学の女性差別は認められるか?)
という問いについて考えようと思います。
結論から言うと、理論的に認められる場合もあるけど、今回は不当だ、と思います。
理由は大きく2点。
 
1東京医科大という、日本の医学界で大きな影響力をもつ大学が、こういった差別的仕組みを維持することの社会的悪影響。
 日本の医学界において大きな社会的影響力を持つ大学の責任として、数が少なく問題視されている女性医師を育てていく意識を持って欲しかったと思います。女性医師の数をこのように意図的に抑えているということはすなわち、将来的に管理職や経営に携わる女性の数も少なくなるということです。
 そうすると、大学側が今は十分ではないと認めている「女性が働くインフラ」が整うためいつまで待てば良いのでしょうか。もちろん男性の経営者の下でも変わって行くことはできるかもしれませんが、女性が働くインフラがないから女子学生数を抑える、という判断をするような経営者のもとで状況が変わることをただ期待し続けることはあまりに不毛に感じます。
 私は医療関係に従事する者ではないですが、これは医学界だけの問題ではないと感じます。一人の患者として自分の体を診察されるときに女性医師に診てもらいたいという気持ちになるときは多いです(実際に初診の男性の医師に診察されたときに、性的に不快な思いをしたこともあります)。また同じ働く女性として、社会的地位の高い「医師」という職業に就く女性がより増えることは、いまだに男性中心主義的な日本社会に風穴を空けていくために必要なことだと考えています。受験者の女性の意図や志向とは関係のないところで、責任ある立場で活躍する機会がこんなにもひっそりと奪われていたことが残念でなりません。
 なお、こういう話をするときに大体反論としてありうるのが、アメリカなどでもアファーマティブアクションを取っているように、恣意的判断は認められるべき、という考え方だと思います。個人的にアファーマティブアクション(AA)については色々と思うところがありますが、ここでは簡単に、AAが認められている理由は今回の件とは全く違う(むしろ逆である)ものなので、AAがOKだから大学側の恣意的判断は認められる、という反論は成立しないということを述べておきたいと思います。AAが特徴的なのは、弱者集団の不利な現状を、歴史的経緯や社会環境に鑑みた上で是正するための改善措置であることです。つまり今回の状況とは全く逆の状況ですね。
 
2男性医師のワークライフバランスの問題(本当に女性だけの問題なのか?)
 女性が働かないことを前提として採用していると言うことは、きっと男性は家庭のこと(育児・家事・介護等)を全くせず仕事に邁進することを期待されているのでしょう。でも全ての男性がこれらのことをせずに済むという保証がどこにあるのでしょうか?例えば急に自分や家族が病気になった時、仕事に疲れて仕事以外の人生も楽しみたいという気持ちになった時、この大学はどれだけ柔軟な選択肢をこれらの男性に与えられるのでしょうか?
 女性は結婚出産で仕事を辞めるという固定的な考えを前提とした採用や人事は、女性のみならず男性にとってもライフスタイルの選択肢が少なく、硬直的なものとなることでしょう。
 
「もし仮に私大が性別を理由に恣意的に入学者を決めることができたとして、なぜそれでも今回の案件が容認され得ないか?」
→もしそうであればその方針は公に対して明確にすべきであったと思います。東京医科大の入試ホームページを見ると、受験科目のみでそれ以外の性別に対する言及などはありません。ましていわんや今回は、マーク式の一次試験の点数で差別を行なっていたと聞きます。あたかも点数のみで厳格に決めているように見せかけて、裏では点数操作を行っていたという事実からは、大学側も良くないこと、知られたらまずいことという意識のもとで行っていたことが分かります。仮にこのような操作を行っているということが受験生に知られた場合、この大学を受ける女子学生はより少なかったのではないでしょうか?
 こういったことは一事が万事で、入り口でこのような差別をしているということは、その次のステップでも、次の次のステップでも、そして今後この大学の組織内にいる限り、ずっとそれが続くということです。見せかけの公平な基準で学生を惹きつけ、実際に受けた学生をこっそりと実力以外のところでふるいにかけていたという事実自体が悪質ではないでしょうか。
 
 今回は明るみに出ましたが、こういった出来事が社会のいろんなところで起きていると思うと本当にがっかりします。今後こういうことが起きないよう、どのような対策がなされるのか、注目していたいと思います。